治療哲学とゲート・コントロール

治療哲学とゲート・コントロール

痛みをいかにして解消するのかと言う問題を、いろいろと調べていくと結局のところ、治療する側の哲学と、治療される側の哲学の問題になってしまうような気がします。

外科医は、手術療法を中心に問題解決を図ろうとするだろうし、漢方医は薬草や鍼灸、あるいは整体などを用いるでしょう。大別すると西洋医学的施術なのか東洋医学的施術なのかということになります。患者は、この2つのどちらかを選択することになります。どちらが良いとか悪いとかについては、一概に言えないとは思いますが、簡単に表現すると、西洋医学は対処療法、東洋医学は体質の改善、つまり、予防的側面も備えており、日本の医学に大きな影響を与えてきたと言えます。

近年は、緩和ケアという言葉が私たちの生活の中に浸透してきました。痛みをコントロールしながら、病気を受け入れていくわけです。では、痛みをどのようにコントロールするのでしょうか。

例えば、癌末期の患者や高齢者の多くは、痛くない、辛くない、こころの安らぎ、質の高い生活を求めているようです。痛みを直接コントロールするのは薬かもしれませんが、辛くない、こころの安らぎ、質の高い生活については心理的な要素で構成されていくものです。つまり、人と人との関わり合いの中でしか満たされない精神的側面なのです。心理療法を加えることで痛みの軽減を図るのは、身体的な感覚としての痛みは、精神的満足度が関係しているからなのだと考えます。この考え方の背景にも哲学が存在しています。

デカルトやカントが主張する二元論と心身一元論の間、つまり、心(精神)と身体(物体)は互いに関わり合いながら存在するという考え方です。繰り返しますが、心が満足感を得られているなら、薬による痛みのコントロールとの相乗効果で痛みは軽減されると言うことになります。

この周辺の心理学分野は、知覚心理学、神経心理学、脳科学などでしょう。

心理学の教科書的存在でもある、「ヒルガード心理学」の中の、第4章感覚過程(PP.256265)にも痛みについての記述があります。

要約しますと、痛みの感覚というのは、無視することのできない感覚であり、極めて不快な感覚なのだけれども、一方では、痛みの感覚には生命を守るという役割も備わっています。そして、「一過性の痛み(短い痛み・激痛・鋭い痛み)」と「持続性の痛み(長い痛み・鈍痛・持続性の痛み)」があり、このふたつの痛みは別々の神経伝導路を伝わると書かれています。

また、痛みの感じ方にも文化的要因や歴史的背景があり、痛み感覚は、身体感覚の問題と同時に精神的な問題であると捉えています。この心理学テキストの初版は、1953年で日本語翻訳版の最初は2002/5の原著第13版を翻訳したテキスト、しかし、同年2002/12には、原著第14版翻訳が出版されています。

ここで、ヒルガードを持ち出して言いたかったことは、58年も前から、痛みについての研究は為されていたこと、薬物治療の効果をあげるためには、精神的側面の援助が欠かせない、身体と心は相互的関係にあるのだと言うこと、この2点です。

1965年にはメルザックとウオールによって「ゲート・コントロール理論」が提唱されました。

脊髄後角に痛覚をコントロールするゲートが存在する、と考えるために「ゲート・コントロール理論」と呼ばれています。太い線維からの入力は、伝達細胞の活動を抑制する(ゲートを閉じる)機能をもち、細い線維からの入力は伝達細胞を興奮させる(ゲートを開く)機能をもつそうです。そして、ゲートが開くと痛信号が中枢に伝達され、このゲートの開閉には中枢からの遠心性コントロールも関与すると考えられているようです。このあたりになると専門的すぎてよく分からなくなります。簡単に言うと、太い神経繊維には、触覚、圧覚、振動覚なども脳に伝達するため、それらの刺激を利用しながら、細い方の神経繊維(痛みの神経)を閉ざすようにする、と言うことになります。

お母さんが子どもによくやる「痛いの痛いの、飛んでいけ」といいながら、痛いところをさする行為ですね。子どもは、お母さんがさすってくれたことで痛みから解放されていきます。

触覚刺激によって、ゲートを閉じるやり方です。

逆に考えてみます。心穏やかな時、触る、押すなどの皮膚感覚への刺激により、ゲート・コントロールされている時は痛みが軽減されるのですから、強い精神的ストレスがある時や皮膚感覚への刺激が無い時(ほったらかされている時)は、本来の痛みより、それ以上の痛みを感じることになります。

ただ、さする時には、炎症を起こしている患部に直接刺激を与えるのはどうかと思います。例えば、腰が痛い時には足とか手とか、患部より少し離れた部位に刺激を与えるほうが無難だと思います。なんだか医学における哲学的立場から、痛みの話に飛んでしまいました。

ただ、同じ病状の腰椎椎間板ヘルニアでも痛みやしびれの症状がなければ、保存治療を行うのですから、痛みがあった場合でも、痛みをコントロールする、ゲート・コントロールをためしながら、マクロファジーを活性化する、筋肉を柔軟にするなどの根本原因に、目を向けていくことができればいいですね。