痛みの科学的研究

痛みの科学的研究

腰痛の85%は原因不明と言われていますが、その中には、心因性の腰痛が多く含まれています。
心が痛みを感じる(正確には脳ですが)など、実際に腰痛を持っていると信じられない気がしますが、一方で、何かに熱中していると痛みを感じない、痛みが薄れることはいろいろな痛みで常に実感しています。
この場合は、比較的短い時間間隔ですが、時には持続して実際の痛み以上に痛みを継続して感じているケースもあるようです。
このような場合は、心の持ち方を変えるような治療でないと腰痛は完治しないことになります。

このような痛みの研究では、現代科学が乗り越えることのできない大きな壁があります。
それは、客観的に痛みを数量化、視覚化ができないことです。
体温、血圧、心拍、内蔵機能の指数などは、いろいろな器具や検査薬で数値化できます。
また、がんやウイルス、細菌、骨格などはレントゲン、CT、顕微鏡などで画像、映像化可能です。
 
痛みに関してもいろいろな測定法が研究されていますが、痛みだけはどうしても、客観的な測定法ができなくて、主観的な部分が残りそうです。
その上に、「心」のあり方、「脳」の感じ方で痛みが異なるようでは、尚、客観的な数値化はできそうにもありません。

難しい痛みの強さの客観的な測定ですが、世界の研究者たちは、MRI(核磁気共鳴断層装置)やPET(陽電子放射断層撮影装置)などを使用したり、動物の脳の一部に電気刺激を与えて、その反応から痛みの強さを数値化しようとしたりしています。
しかし、ネズミとネコでは得られる結果が違うようなので、人間に当てはめることができていないそうです。
人間に対して、このような実験はできないので、痛みの研究の限界があります。

痛みの不思議さを物語るミステリーに実例がいくつかあります。

1)失った身体の痛み
事故など身体の一部(腕や足など)を失った人が、既に亡くなっているはずの腕や足の痛みを感じるということが起きています。これは幻肢痛と呼ばれています。
当然、その痛みは切断された箇所の部分が傷んでいることで生じている痛みではありません。
あくまでも、腕であれば手や、手の指先などなくなっている部分の痛みです。

2)麻痺した身体の痛み
これは、1)があり得るなら、ある意味では当然とも思えますが、例えば脊髄を損傷して下半身麻痺状態になった人が腰痛を感じたり、足の痛みを感じることがあります。
通常、痛みを伝える神経が麻痺し伝わらないので、痛みを始め、あらゆる感覚が麻痺して、実際に痛みがあったとしてもその痛みを感じることができないはずなのに感じるケースです。

3)CRPS type1(複合性局所疼痛症候群タイプ1)またはRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼ばれる症例
注射や手術、骨格の矯正、骨折や打撲、心疾患や脳血管障害などがある程度完治しても、手足の腫脹・浮腫が長期にわたって続いたり、骨折であれば、その箇所が動くはずなのに力が入らない、思うように動かないなど異常や、耐え難い痛みが生じたりすることが続き、徐々に、骨や筋肉が痩せてしまうという症状です。

4)CRPS type2(カウザルギー)
3)よりも、極端な事例で、例えば刃物なので深い傷を負って、神経が明らかに切断されていることがはっきりとわかっているので、本来ならば痛みなどを感じないはずなのに感じる場合の症例のことです。
この場合は、薬物療法や神経ブロック、リハビリを行ってもなかなか完治しません。

5)痛みを発生す症状・病変があるのに痛みを感じない
例えば、心電図などを見ると、痛みがあってもおかしくないのに、痛みを感じないというケースがあります。
この症例は無痛性心筋虚血と呼ばれています。
その他にもいくつかの病気において見られる現象です。

6)偽薬効果(プラセボ効果)
痛みだけではなく、病気そのものが思い込みで治るケースです。
薬ではないものを薬と思い込んで、それも良く効く薬と思い込んで飲むと病気や痛みが本当に治る・消えるという効果のことです。

7)偽薬効果(プラセボ効果)の逆効果(ノーシーボ効果)
効果があるのに、効果がないと思い込むと薬効などが効かないケースのことです。
このことは、薬を使った実験ではないですが、被験者に熱いアイロンを見せて、その後、目隠しをして別の冷たいアイロンを裸の背中に当てると、熱いアイロンを当てられたと被験者は勘違いし、熱さを感じます。
そして、熱さを感じるだけでなく、人によっては皮膚が本当に熱さで赤くなってしまうことがあります。

このように、いわば勘違いでも痛みは生じています(一部、痛みを感じても痛みを感じないケースもあります)
でも、痛みを感じている人にとっては切実な痛みであることもまた、紛れもない事実です。
 
痛みの不思議は、身体が痛みを発生させる異変が起きると、それを脳に知らせるための信号が発せられ、それが神経を通って脳に達して初めて痛みを感じます。
ここで、脳が痛みを痛みと感じなければ痛みはあっても痛みを感じられず、痛みがなくても痛いと感じると痛みがなくても痛みが生じます。

つまり、脳は物理的な痛みに対して100%正確に痛いという反応をしないことがあることになります。
逆に痛みがなくても何らかの理由で、脳が勝手に痛いと感じると痛み、それも耐えられないような痛みまで作り出してしまうことがあることになります。

痛みが解明できていないのは、脳の中ではどのようにして痛みが生まれているのか、脳内でどのような反応が起きて痛みを痛みとして脳が認識するのかが分かっていないからです。
脳科学の発達はすさまじいので、いずれは解明されるかもしれません。
そうなると痛みをコントロールすることも可能になってくるのでしょう。

腰痛は他の病気から生じる痛みに比べると、この痛みの複雑さを非常に良く表しています。 
従って、整形外科医や他の治療院でも、単に「姿勢の問題」や「骨格の歪み」などと単純な決めつけ、レントゲン、MRI、CTなの画像など視覚的な変化のみで全てを診断することは危険です。
もし、診察の際に画像見るだけで、触診すらしないという医師がいたら、そこで症状が良くならなければ、早く見切りをつけた方が良いかもしれません。

尚、テルモと杏林大学が痛みを測定し、数値化する研究を行いその技術を開発したというニュースが8年前2004年に報道されましたが、その後、実用化はされていないようです。

代わりに、医療機器のニプロが2007年にオサチという会社が、製品化した知覚・痛覚定量分析装置「Pain Vision(ペインビジョン)」を全国の医療機関向けに販売開始しています。
「Pain Vision(ペインビジョン)」は、患者の腕などに電極パッドをつけて流す電流を徐々に強くして、患部の痛みと同程度になるまで強くし、数値化する機械です。
人間の脳は、2つ以上の痛みがある場合、一番強い痛みに気が集中するので、電流の痛みを強く感じる数値を測定することで客観的に痛みを測定できます。

ただし、同じ数値の電流の痛みを全ての人が同じ痛みの強さと感じるかは不明です。
中には、痛みを快感と感じるような人もいるので同じとは言えないと思われます。