腰痛を訴える高齢者の数が高齢化社会の進展に伴い、毎年毎年増加し、多くの高齢者が腰痛を訴えています。
高齢者の「腰痛」の特徴は、ほとんどが加齢に伴う退行性変化を主な原因としています。
変形性疾患である脊柱管狭窄症、椎間板変性症が全体の約6割、骨粗しょう症、椎体骨折が約3割、がんなどが約1割です。
一般的にはがんがとなる原因の腰痛は1%前後ですので、高齢者になるとがんによる腰痛の比率が高くなります。
がんは恐ろしい病気だけに気をつける必要があります。
がんが脊椎に転移して痛みがでる腰痛の特徴には「安静時にも持続する痛みがある」、「夜間、痛みのために目が覚める」などがあります。
このような症状や体重が減る、痛みが増していくというようなときは早く専門医の診察を受ける必要があります。
高齢者の腰痛の原因は、主に以下の3つです。
1)腰周辺の筋・骨格系の異常
・加齢に伴う椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性脊椎症など
・脊椎の炎症による関節リウマチ、化膿性脊椎炎、脊椎カリエスなど
・がんの脊椎転移など
・脊椎の外傷による腰椎捻挫、圧迫骨折など
・代謝障害による骨粗鬆症、骨軟化症など
・脊柱の変形による脊柱側弯症。後弯症など
・機能性障害(疲労性腰痛・筋筋膜炎など)
2)腹部・骨盤内の臓器や血管などの異常
・胃腸:胃潰瘍、十二指腸潰瘍、虫垂炎、胃がん、大腸がんなど
・すい臓:すい炎、すい臓がんなど
・胆のう:胆石、胆嚢がんなど
・子宮:子宮内膜症、子宮がん、卵巣がんなど
・泌尿器:尿管結石。腎盂腎炎など
・血管:腹部大動脈瘤など
3)心因性
・MRI検査、CT検査などで異常がないなど原因不明の腰痛の原因に「心」の問題に原因があるとされています。
高齢者の場合は、3つの中では、1)がもっとも多いですが、2)のような内臓や血管に原因があるものもあり、その中にはがんが原因になっていることがあるので注意が必要です。
高齢者になると、重篤な疾患による腰痛の比率があがるので、これらを見逃さないように診察を受けて少なくともこれらの重篤な病気が原因でないことを確認する必要があります。
診断にはCT、MRI、骨シンチグラフィーなどの画像検査や、骨密度検査、腫瘍マーカー、骨代謝マーカー、血清免疫電気泳動などの血液や尿検査が行われます。
高齢者の腰痛の治療は、緊急をゆする場合の他は、原則的に保存療法が行われます。
最近では、高齢者でも負担の少ない手術法が開発されて、積極的に手術が行われるようになってきてはいますが、合併症の危惧があったり、全身の状態から手術ができないこともあります。
高齢者の保存療法は、副作用を伴う可能性のある薬物療法よりも理学療法や低負荷運動療法、日常生活指導、装具療法などが主に行われます。
薬物療法を受ける場合は、効果がないのに服用を続けるのは問題が起きることがあります。
例えば、骨そしょう症患者に対して、痛みを抑える目的で処方された消炎鎮痛剤を長期服用すると、骨塩量の増加が阻害される可能性があります。
高齢者の自宅療養で注意する点は、痛いと言って、運動を全くしないで寝たきりになることです。
痛みは、家族と言えども判断がつかないので、本人の言うことを信用するより仕方がない面がありますが、過度に安静にしていると、逆効果になります。
適度な運動が腰痛を改善・予防します。
腰椎コルセットや痛みを抑えるブロック療法をするなどして身体を動かすことが大切です。
高齢者は、多くの人が腰痛以外に、ひざ関節の痛みなど他の箇所の痛みも持っています。
ひざや股関節が痛むと、それは腰痛にも影響を与えます。
また、逆に腰痛が、ひざ、股関節を痛めることにもなります。
高齢者はバランスよく痛みを解消するようにすることが求められます。